7月10日、「旭川はれて」(「旭川ここはれて」より改名)は無事、グランドオープンしました。いまは、開店後の忙しさと現実の厳しさ、経営者としての責任の重さ、そしてご縁の尊さをますます感じながら過ごす日々です。
 開店までの思いを忘れないためにも、ここに日記を綴っていきたいと思います。

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2022年
1月11日(火)

19時11分旭川着。いよいよ旭川で、開店にむけての生活が始まる。

1月13日(木)

 旭川の「ときわ市民ホール」調理室にて試食会。店舗経営初心者の9店舗が集まり、各々のメニューを作って試食する。
 私は、お茶漬けと夜の営業用に大人スイーツを用意。
 お茶漬けは、煎茶をそのまま炊きあがったご飯に混ぜ、それを焼きおにぎりにして器に入れ、その上から出汁をかけることにした。
 審査でのメニュー試作では、お茶漬け用に抽出したお茶の残った茶葉をそのままご飯にのせてお茶をかける、お茶をまるごと食べるお茶漬けだった。その後、何度か試作を重ねるうちに、お茶のえぐみのようなものが舌に残る感じや味の印象が薄いことが気になりだし、結局このアイデアはやめることにした。
 そして、もう少しインパクトのあるお茶も食べられるお茶漬けにしたいと考え、煎茶を混ぜたおにぎりに、しっかりと取った出汁をかけるお茶漬けを思いついたのだ。
 おにぎりを崩しながら食べたら楽しいのでは、さらに表面にカリッと焼き目があったら食感も面白いかもしれないと、おにぎりを焼きおにぎりにすることにした。
 出汁は豚と鰹の合わせ出汁。これは昨年の12月に「旭川ここはれて」の沖縄研修でソーキそばを食べたことから思いついた。旭川はラーメンの町でもあるので好まれる気がした。
 焼き目のついたおにぎりを崩すと中からフワッと湯気が立ち、具が現れる。そのワクワク感やお焦げの食感も楽しんでもらいたい、と考えていたのだが、
「焼きおにぎりにする必要があるのか、仕事の一連の流れ、いわゆるオペレーションを考えたら、やらなくてもいいでは?」という意見が出た。
 もっとしっかり焼き目をつければ、こんがりした香ばしさが際立ち、「あえて焼きおにぎり」の意図が伝わるかもしれない。
スウィーツは「ほうじ茶ぷりん」を試食してもらった。これはなかなか好評だった。「ほうじ茶ぷりん」は、夜のメニュー限定にしようと思う。「旭川ここはれて」は全店舗23時までの営業が決まっており、夜はアルコールをおくことになっている。夜の営業の目玉になるようなものと考えた時、お酒を飲んで最後に甘いものを食べたいと思った女性が、お茶と一緒に食べてもらえるようなスウィーツがあったらいいなと思った。「大人のスウィーツ」というのはどうだろう。そんなことをイメージして「ほうじ茶ぷりん」を作った。

ほうじ茶ぷりん。
トロっととろける食感にしたいと考案したお茶風味のみるくぷりん。
ほうじ茶と緑茶味2種類ある。

1月15日(土)

「ときわ市民ホール」会議室に13時集合。いよいよ正式契約である。
 施設の図面をもらい、私の出店場所も決定した。お隣の飲茶のお店は、2次面談からずっと一緒だったKさんで、とてもうれしく思った。開店してからも仲良くしてもらえそうで心強い。
 今回出店する25店舗のうち9店舗は店舗運営初出店のメンバー、私もその中の一人。この9店舗は、自店のメニューを大まかに決めるための合同試食会や、沖縄にある屋台村視察の研修などで何度も顔合わせをしており、今ではもう仲間という感じだ。
「旭川ここはれて」から、旭川の食品関係の取引業者を紹介していただく。お話させていただくと皆さん「ここはれて」に期待をしてくれていることがわかる。
「頑張らないと!」ーー自分に気合いを入れる。
 この後、旭川在住のデザイナーSさんと、自家焙煎の珈琲屋さん「北珈館(ほっこうかん)」で打ち合わせ。「北珈館」はSさんのご両親が経営している。住宅街にぽつんとあり、浅炒りの珈琲は飲みやすく香りがとっても良い。アットホームな雰囲気がとても素敵なお店だ。

1月18日(火)

 デザイナーSさんのご両親が経営する「北珈館(ほっこうかん)」で、お茶の味比べワークショップを開催させていただく。
 沖縄県から宮城県までさまざまなお茶を淹れて味比べをする。「私は、これが好きかな~」と好みのお茶は人それぞれ、飲んだお茶の感想もさまざま。うま味の強いお茶を飲んで、お茶なのに出汁のような味がすることにびっくりしつつも美味しいと言ってくださり、昔飲んだ美味しいお茶の味に近いとか、いろんな感想を聞くのが楽しかった。

1月21日(金)

 旭川の家でメニューの試作づくり。旭川では、パートナーの実家にお世話になっていて、お義母さんには、台所のスペースを空けてもらうなど、試作しやすいように全面協力をしてもらっている。もちろん味の感想も!
 この日は、「カステラサンド」を作った。カステラサンドは、以前から好きだった旭川の高橋製菓が発売している「ビタミンカステーラ」に、自家製のお茶の佃煮を挟んだデザート。私は地方に行ったら探すものがある、その街で何気なく過ごす中で身近すぎて、もしくは日常の時間に普通にありすぎて、他にはないものなのに普通にいつもあるもの。ビタミンカステーラは正に私にとってそんな発見したお菓子だった。昔懐かしい味わいの少しぱさつくようなカステラ。袋もレトロで可愛い。地元では普通でしかないものを、再発見し魅力を伝えるのも道外からきた私ができることだと思う。そんな風にメニューで表現出来たらいいなと思った。
 茶殻を利用して作るお茶の佃煮は、「一葉(かずは)」勤務時代に知って、大好きになった。お茶を再利用していることもそうだし、味も存在も面白い。お茶の葉は茶産地ではよく食べられているのに一般的には知られてない。
「お茶の葉を食べる」ことは、持続可能な社会、エコを目指す今の状況にあっていると思う。
 普通、お茶は飲むものだが、更に「食べる」という要素が加わったら、年々減少しているお茶の消費量も増えるのではないかと思う。その役目としてお茶の佃煮はインパクトがある。そのまま食べるだけでなく、調味料感覚でつかっても美味しい食材なのだ。
 だからこそ、お店ではお茶の佃煮を使ったスウィーツだけでなく、料理もおすすめしたい。そこで、お茶の佃煮とマヨネーズをからめた鶏の唐揚げ「唐揚げ茶ヨネーズ」も試作する。
 旭川に開店するお店は、昼はカフェ、夜は「ここはれて」側からのお酒をおいて欲しいとの要望で、居酒屋スタイルになる。夜のメニューも、「お茶を食べる」というテーマから外れたくないので、お茶を使ったおつまみが必要になる。 
 できる限り丁寧な手作りをしたいと思うけれど、店内はそれほどスペースもないし、スタッフも沢山かかえられない。そんな理由から、仕込みの工程は少ない方がいい。なるべく手間をかけずに、原価も抑えたい。一方で、「ここはれて」のコンセプトでもある「道産の食材を紹介する」こともクリアしないといけない。
 どうしたらいいのか悩むところ。夜のメニューも、お茶を使った料理をメインにしたいので、つまみとして上手くバランスが取れるように考えていこう。

大正6年、旭川の高橋製菓が、当時、栄養失調になることが多かった子供たちに少しでも栄養価の高いお菓子を提供したいと考えて商品化。
旭川で育った人にとっては、誰もが一度は食べたことのある、 思い出の味ともいえる。
茶殻を利用して作るお茶の佃煮。
湯でこぼしをして茎を抜き、調味料を加えて炊き上げる。
茎を抜く作業は面倒ではあるのだが、意外とこの作業が好き。
ビタミンカステーラに、お茶の佃煮とバニラアイスを挟んだ冷たいデザート。
お茶の佃煮とマヨネーズを絡めた鶏の唐揚げ。

1月24日(月)

「ときわ市民ホール」会議室、15時集合。
 この日は、内装の打ち合わせ。出費は最小限に抑えたいと考えているのに、冷蔵庫がもっと欲しいとか、棚が欲しいとか、意外と要望の多い自分がいることに気づく。
「旭川ここはれて」は屋台村をイメージしていて、1店舗の大きさは7坪程度で15席。おそらく一人で手が届くほどの広さだと思うのだが、そのスペースの想像がなかなかできない。どうも会社員時代の経験が邪魔をする。かつて私が働いていた「一葉(かずは)」は30席ほどのお店であったため、その規模でいろんなことを想定してしまうのだ。イメージをもっと小さくしないとダメだ。
 店舗は、ベースとなっている設計に自分の希望で何を施していくのか決めていく必要がある。壁や椅子の色も自分で決定しなくてはならない。それと平行してオープンまでにメニュ―内容を決定する必要がある。内装を検討していると、いよいよオープンは間近に迫ってきているのを実感する。
「ときわ市民ホール」での打ち合わせ後、「北珈館(ほっこうかん)」へ。デザイナーSさんにロゴ制作と今後のメニューブックなどのデザインを依頼する。「旭川ここはれて」事務局へ提出するロゴの締め切りは、2月末。あまり時間がない中でお願いする。まずはイメージラフをこちらで描いて、それを元にデザインしてもらうことになった。

1月25日(火)

 茅ヶ崎の茅花舎(つばなしゃ)の内田さんからお手紙届く。可愛い葉書と一緒に。中には、HPでの連載の依頼が書いてあった。
自分にそんな日記連載が書けるのか、と自信はないけれど、連載させていただくことに、とてもときめいた。以前、パートナーに「何か日記を書くようなチャンスがきっとあるはずだから、メモをしておいた方がいいよ」と言われたことを思い出した。このことかもしれない。

1月26日(水) 

「ほうじ茶パフェ」の試作。
「緑茶パフェ」と「ほうじ茶パフェ」をメニューにだそうと思う。器をどうしようか悩むが、ひとまず試作用として、100円ショップでグラスを購入した。
「ほうじ茶パフェ」を彩る「ほうじ茶ゼリー」を作ってみるのだが、クリームダウンして濁ってしまう。クリームダウンは茶葉に含まれるタンニンがゆっくり冷える事で結晶化する現象。「一葉(かずは)」でも、ほうじ茶ゼリーを作っていたが、失敗することはほとんどなかったのに、なぜだろう。
 クリームダウンの原因はほとんどが急冷の仕方。確かに、氷の数が家庭と職場では違いすぎる。それだけが原因なのか。今日のところはわからない。思わぬ壁にぶつかっている。
 仕方がないので、ゼリーのことは先送りにし、こんな風に作りたいというイメージでパフェの盛り付けを始める。パフェに必要なほうじ茶アイスは市販で手に入れることができなかったため、試作ではバニラアイスで代用することにした。開店までに、ほうじ茶アイスの仕入れ先も探さなくてはならない。
 余談ではあるが、北海道の冬は「凍(しば)れる」という表現をするくらい寒さが厳しい。ストーブの火も一日中つけている。これも驚いたけれど、もっとすごいのは、「凍らせたくないものを冷蔵庫にいれる」ということ。外に出したら凍ってしまうのだ。だから、家の中でも火の気がない所は天然冷蔵庫になってしまう。旭川の家では、冷やしたいものは玄関においとけば大丈夫!という具合に。なんと便利!

緑茶パフェとほうじ茶パフェ。
緑茶パフェはお茶の佃煮とみたらしソースで甘じょっぱく、ほうじ茶パフェはフルーツソースで爽やかに仕上げた。なかに入っているゼリーは試行錯誤したが無事に完成。ビタミンカステーラも入っている。

1月28日(金)

 プリンターが旭川での私の拠点である義母宅に届く。フライヤーなども含め、何かと印刷することが多くなるはずだと考え、A3までプリントできるものを探していた。だが、新型コロナウイルス感染症の影響で機器の部品調達が出来ないためか、量販店でも「在庫なし。再入荷は未定」という商品が多い。探していたプリンターを諦めかけていたのだが、数店まわった最後のお店でなんと「道内に1台しかないのをみつけました!」とお店の方が取り寄せてくれた。本当にありがたい。
 この日は、旭川にある紅茶専門店「ライフ・ラプサン」を訪ねる。北海道で初めて紅茶専門店としてオープンしたところで、紅茶を勉強していた20年ほど前に、行きたいと思いながら行けずにいたお店だ。思ったより店内は広く、可愛らしい雰囲気だった。店主であるご夫婦は、とても気さくな方で、日本茶カフェをオープンすることを伝えると、「行きますね」と応援してくれた。
 1979年8月にオープンということは、43年も営業を続けているということだ。本当に凄いと思う。私も、長く愛されるお店にしていきたいと思う。

*2月の日記に続きます

この記事を書いた人
【リエゾン ミサ】日本茶専門カフェ店主・日本茶アルティスト

神奈川県藤沢市鵠沼海岸生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業後、写真家として活動するが、幼い頃から食べることが好きだったため、食の道に転向する。天然酵母パンを伊藤幹雄氏に、紅茶を磯淵猛氏に学ぶ。中国茶「アランチャンティールーム茶語(チャユー)」新宿高島屋店の勤務を経て、株式会社丸山園本店に入社。直営の日本茶専門カフェ「一葉(かずは)」で約10年間運営に携わったのち独立。「LIAISON MISA(リエゾンミサ)」を立ち上げ、お茶の販売と日本茶の魅力を伝える活動を開始。その一環として、2022年7月、北海道・旭川の商業施設「Asahikawa Harete(旭川はれて)」に日本茶CAFE/和風居酒屋 WHIZ by LIAISON MISA開店を予定している。

Asahikawa Harete(「旭川ここはれて」から名称変更)HP : https://www.asahikawaharete.com
日本茶CAFE/和風居酒屋 WHIZ Instagram:https://www.instagram.com/whiz4188/

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