7月10日、「旭川はれて」(「旭川ここはれて」より改名)は無事、グランドオープンしました。いまは、開店後の忙しさと現実の厳しさ、経営者としての責任の重さ、そしてご縁の尊さをますます感じながら過ごす日々です。
 開店までの思いを忘れないためにも、ここに日記を綴っていきたいと思います。

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2022年
2月1日(水)

 旭川市旭神町にある「CHAMA」というおにぎり屋さんへ行くことにする。旭神ヴィレッジHakoniwa箱庭という施設の中にあり、コンテナハウスが集まった場所のようだ。
 どのようなお店なのか視察もかねて、パートナーと義母と3人で、車で向かう。旭川は広く、まだまだ道がよくわからない。しかも雪の中、一人では運転が怖い。旭神ヴィレッジHakoniwa箱庭は沢山の雪に囲われていて、一瞬通り過ぎてしまいそうになったけれど、雪に囲まれている感じは素敵だった。
 コンテナハウスではないお店もあり、白い雪の中に灯りが燈る店は、温かい雰囲気で風情があった。雪の小道ができていて、これもまた良い感じ。「ここはれて」の冬もきっとこんな様子なのでは、とイメージできた。雪の生活を知らない私にはとても参考になり、行ってよかった。
 「CHAMA」もネットで見たとおり47都道府県のおにぎりが並んでいて、楽しく美味しそうで、それだけで胸が躍った。いわゆる伝統的なおにぎり屋さんではない、カジュアルな雰囲気も素敵だった。スタンプサービスをやっていて、買ったおにぎりの都道府県別にスタンプを集めるようになっている。こういう方法も面白いなぁ。

2月2日(木)

 開店にむけて、日々大きな力になってくださっている義母の誕生日。ケーキとお花でお祝い。義妹と甥っ子たちも集まる。

2月3日(金)

 デザイナーのSさんよりロゴデザイン案が送られてくる。ロゴデザインについて話をしたいので、時間のある時にいつでも「北珈館」に寄ってくださいというメールが添えられていた。
 急ぎで作ってもらったのに複数のデザイン案を用意してくれて、しかもどれもいいデザインで驚く。お願いしてよかった!
 短期のアルバイトをしようと、今日は16時からアルバイト面接。久しぶりに飲食店の仕事。大手レストランチェーン店の旭川1号店。やはり面接は緊張する。

2月4日(土)

 14時、暢章窯(ちょうしょうがま)へ。主宰の森橋章子(もりはしあきこ)さんと打ち合わせ。森橋さんとは、先月、旭川市内にあるギャラリー併設の喫茶店「舞・ふれんど」で出会った。
 パートナーと義母と3人でお茶をしたら、たまたま暢章窯の作品の展示をしていたのだ。
 ちょうど、ほうじ茶用の湯呑みを探していたので、「何かないかな」と見ていると、5人ほどの作家さんの展示作品の中に、気に入った湯呑みをみつけた。それが森橋さんの作品だった。当日、森橋さんが在廊されていたので話も早く、後日、ご自宅のアトリエへ改めてお邪魔することになった。
 地元の陶芸家さんの作品をお店で使いたいと考えていたのだが、なかなかお願いできる方がいなかったので、この出会いは本当に奇跡だと思う。パートナーが「ここに行ってみよう!」と言ったのが、まさにジャストタイミングだった。ありがたい。
 暢章窯はご自宅の1階を工房にしていて、20年ほど前から陶芸教室も開いているとのことだった。同じ町内にいるのに、全然知らなかった。日本茶カフェをオープンすることや私自身の話をし、森橋さんの作品を見せていただいたりした。
 ほうじ茶の湯呑みだけでなく、湯冷し、お茶請け用の小皿の制作もお願いすることにした。湯冷しは、なかなか小振りの一人用の湯冷しが見つからなかったので、森橋さんに焼いていただけるのはとてもうれしかった。お店で使いたいと思っている急須などを持参し、イメージを伝えた。お茶を淹れて飲んでもらったところ、「美味しい」と言っていただき、今度オープンするお店の話にも関心を持っていただいた。
 私が持参した絞り出し急須にとても興味を示されて、「こういう物を作ってみたい」という強い気持ちが、ひしひしと伝わってきた。私よりも年上の方にこういう言い方は失礼かもしれないが、情熱あふれるその姿に、とてもピュアな方に違いないと感じた。
 イメージしている湯冷しを見本として森橋さんのところに置いていく。カラフルにしたいという私の要望に、「こんな色があるよ」と沢山サンプルを出してきてくれた。旭川市内で火山灰がとれるらしく、小皿とほうじ茶用湯呑みは、その釉薬を使って焼いてくれるという。
 すごい! まさに旭川産だ!
 必要な個数や大きさを伝えると、オープンまで少し時間の余裕があるので、色々試しに作ってくれるとのこと。
「大体1ヶ月くらいしたら試作品を見てください」。
試作品が出来上がったら、森橋さんが連絡をくださるそうだ。
 さあ、今日から冬季オリンピックだ!

2月5日(日)

 昨年の11月に滋賀県大津市にある「中川誠盛堂茶舗」さんで購入したお茶、政所茶(まんどころちゃ)を淹れてみる。茶葉5グラムを蒸らし時間1分で淹れてみた。6煎くらい楽しめそうだ。
 お店に置きたいと考えているお茶の一つだ。
 「中川誠盛堂茶舗」は、初めての”関西地方お茶の旅”で立ち寄ったところで、以前、テレビの旅番組で紹介されたのをパートナーが覚えていた店だった。江戸時代から続く老舗で、時代を積み重ねた趣のある店構えもとても素敵だった。店頭には焙煎機が置いてあり、店先からお茶のいい香りが漂っていた。

 近江のお茶を愛してやまないご主人のお話はとても面白く、日本茶の話題にとどまらず、茶器や中国茶など様々なお話を聞かせていただいた。お茶の試飲も沢山出していただき、どのお茶もとても美味しかったのだが、とくに興味を惹かれたのが政所茶だった。
 滋賀県は、約1200年前に最澄(比叡山延暦寺を開いた人物)が唐からお茶の種を持ち帰り、植えたとされる古いお茶の産地で、その中でも政所(滋賀県東近江政所)は、昔ながらの栽培法を変えずに残り続けた希少なお茶産地だ。ざっくりとした見た目の茶葉は、一見美味しそうには見えないのだが、香り高く、すっきりとした味わいで喉越しが良い。この茶葉を、あえて寝かせ、熟成させることで旨みを引き出した「ヴィンテージ茶」というものを販売していた(もちろん、その年に収穫されたお茶も販売している)。
 滋賀県ではどうやらお茶を寝かせるというのは珍しくないようだった。総じてお茶は新茶が喜ばれるが、お茶を何年も寝かせ熟成させるという方法も、お茶の面白さの一つとして沢山の人にぜひ伝えたいと思った。パートナーもご主人と話が弾み、その日はおそらく半日近く「中川誠盛堂茶舗」さんで過ごした。

滋賀県大津市にある「中川誠盛堂茶舗」。店頭に
はほうじ茶の焙煎機が始動しており、お茶のいい
香りが漂う。

2月6日(月)

 今後のメニュー試作については「ここはれて」が個々に対応するとのことで、テストキッチンとして、1月に試食会を開催した、ときわ市民ホールの調理室を確保してくれている。
 そのテストキッチンが、2月8日に入っているため、準備をする。
 あんみつとパフェを作る予定だ。それと壁にぶつかっているゼリーも。自分がちゃんとできることも大事なのだけれど、スタッフが誰でも失敗なく作れないといけないので、ゼリーを固めるときの急冷のポイントをはっきりさせたい。色々調べたり、今までの記憶をたどったりして、砂糖をお茶の抽出液に溶かした方が濁りにくいということがわかる。使っているゼラチンも、神奈川にいたときとは違うメーカーなので、それも関係しているのか、それとも、お茶の濃度によるのか。または、単純に氷の数による温度の違いということもあるかもしれない。ほかにも、使う道具の材質によっても熱伝導率は違うはずだ。
 いずれにせよ、ある程度レシピをまとめて、店舗に入れるようになったら、再度試さないとダメだ。

滋賀県東近江市政所は、琵琶湖の東部、
鈴鹿山系の渓谷にある。
政所は標高400mほどの高地にあり、昼夜の
寒暖差が激しく、愛知川によって生じる朝霧
が多い。このような気候風土が、日本最上の
お茶を育てるといわれている。

2月7日(火)

 短期のアルバイトが決定。午前9時、事前のオリエンテーションに参加する。
 午後は、宮城県石巻市の「鹿島茶園」の佐々木さんと岐阜県東白川の「常磐園」の安江さんに電話する。改めてお茶の仕入れのお願いをしたところ、承諾いただいた。よかった!
 石巻の「鹿島茶園」の佐々木さんとの出会いは忘れられない。毎年、パートナーは東日本大震災の取材に通っている。石巻の取材に私が同行した際に、パートナーから、「この辺りでお茶ないの?」と言われたのが、出会いのきっかけだった。そのとき、標識の「桃生(ものう)」という字を見て、そういえば「桃生茶(ものうちゃ)」があったと思い出し、寄ってみることにした。
 何の情報も手元になかったため、まずは役場に聞いてみるかと向かった。その日は3月10日で、役場の中に献花台があったのを覚えている。役場の方はとても親切で、その場で桃生茶生産者の佐々木さんに電話をしてくれた。残念ながら、佐々木さんは出かけていて、自宅にいないので話をするのは難しいとのこと。突然だったので当たり前だろう。
 どんな所にあるのかを見ておきたいので、役場の方に場所だけ教えてもらい車で向かった。
 町中から少し離れていたが何とか到着。「鹿島茶園」という看板がご自宅に掲げられていて、それを見られただけでも満足だった。

 しばらくすると、佐々木さんが帰ってきた様子だった。不意の訪問だとはわかってはいたが、せっかくのチャンスなので戸を叩いてみた。これが本当によかった。急な来訪であったが、お茶に対する思い、熱意をパートナーと一生懸命伝えところ、ご自宅に上がらせていただけた。しかも2時間ほどお話を伺うことができた。この日から、佐々木さんの所へ度々お邪魔するようになり、お茶も仕入れさせていただいている。

 日本北限のお茶産地である桃生は、茶摘み時期が主要産地よりも遅く、一般的な新茶の時期が終わった頃に桃生茶の新茶は仕上がる。その味は「ふくよか」という言葉がとても似合う。佐々木さんは桃生で唯一お茶を作っている本当に尊い存在だ。大好きな生産者さんの一人である。
 岐阜県東白川村の「常磐園」さんにも、深い思いがある。「常磐園」さんは、東白川村五加地域の五加茶生産組合に属し、ご自身の製茶工場を持つ自園自製の茶農家さんである。五加茶生産組合は孫の代まで安心なお茶を届けたいと、組合全体で農林水産省の特別栽培農産物に係るガイドラインに基づき、無農薬減化学肥料の特別栽培茶の生産を20年ほど前から行い、組合の工場で製茶している。
 五加茶生産組合とは、「丸山園本店」を私が退職した後に出た、お茶の旅で出会った。この旅で初めて東白川へ行き、特別栽培茶を掲げた茶工場の看板を見つけて、訪問した。残念ながら工場は閉まっている様子だった。パートナーが看板にある番号に電話をしてみようといったので、電話してみると工場長のIさん(元五加茶生産組合会長)が今から行くので待っていて、とわざわざ来てくれた。五加の新茶の生産はすでに終了していて工場は閉じていたのだが、工場を開けてくれ、沢山お話を聞かせていただいた。

 帰り際には、「一番茶の終わりのだけど美味しいですよ」と、まだほんのり温かいお茶を袋いっぱいにもたせてくれた。とてもうれしかった。この出会いから、五加茶生産組合の特別栽培のお茶を仕入れることとなった。新型コロナウイルス感染症が流行する前には再度、五加茶生産組合を訪ねて色々とお話を伺った。五加のお茶農家の高齢化が進む中、生産量も減り続けている。そのような状況で頑張っている組合に、私も微力ながら組合存続の力になれたらと思っていた。しかし、その願いも届かず工場を維持するのが難しくなり工場閉鎖が決定してしまったのだ。
 特別栽培のお茶は、どの工場でも製茶ができるというものではない。組合自体がなくなった訳ではないのだが、荒茶生産のみとなり、組合からの直接仕入れが困難となった。あきらめるしかないのか……。そんななか、紹介していただいたのが、ご自身の製茶工場を持つ「常磐園」の安江さんだった。ちなみに、安江さんは地元「五加神社」の神主さんでもある。
 夜、「ここはれて」運営のOさんより明日のテストキッチンの日程が変更になるとの連絡が来る。旭川はそうでもないけれど札幌は大雪で、担当のFさんが札幌から戻ってこられなくなったとのことで、18日に変更となる。TVでは北海道大雪の情報が流れているが、今年は、札幌がひどくて旭川は逆に雪が少ない冬なのだそう。
 札幌に雪が多い年は、旭川は少ないのだ、と義母が教えてくれる。そしてまた、雪の少ない年の次の年は大雪になるのだそう……。来年は、すごいってことだよなあ。心配。本州の知り合いが気遣って度々ラインをくれる。ありがたいなと思う。

宮城県石巻市桃生地区にある「鹿島茶園」。
突然訪れたにもかかわらず、佐々木さんと会う
ことができたのは、とても恵まれていた。
北上川を見下ろす山の上にある鹿
島茶園。いまから400年ほど前、仙
台藩・伊達政宗公が領内に茶の樹を
植えさせたことから、宮城県の
茶栽培は始まった。
五加茶生産組合では、平成11年
より除草剤を含めたすべての農薬
を中止し、人と自然にやさしい
お茶の栽培を続けている。

2月10日(金)

 羽生結弦君、フィギュア4位。4回転アクセル認定!!
 夜、甥っ子と義妹が遊びに来てくれたので、パフェを食べてもらう。
「チョコレートパフェとかの方が好きかな」
甥っ子が言った。
あ! 最後にソースをかけてなかった。
 何度か家族に食べてもらい、自分でもそれなりに美味しいとは思っていたのだけれど、何か物足りないとも感じていた。気が付いてよかった。なぜ、抜けてしまっていたのだろう。
甥っ子くん、ありがとう!
 茶器を注文する。茶器の仕入れ先をどうしたらいいかと悩んでいたところ、
なんと「ここはれて」の出店者の中に陶器屋さんがいたのだ。本当にありがたい。
ラッキーとしか言いようがない。
 名寄の老舗の陶器屋さんである松前さんは、今回は名寄名産のもち米を使った「おはぎ屋」で出店する。松前さんにいただいたカタログから、お店で使う茶器をいくつか試しに注文する。すぐに返事をもらったのだが、一番使いたいと思っていた煎茶用急須が品切れ中とのこと。
しかもいつ入荷するのかわからないという。
 とりあえず、再度メーカーさんに在庫を調べてもらうことにした。
急須は、一人用の小ぶりなもので、茶漉しはステンレスでないものがいい。そして、同じ色ではなく、いろいろとカラフルに揃えたい。実は、バラバラな種類の急須にするのも楽しいと思ったのだが、私だけでなくアルバイトスタッフの子にも淹れてもらう予定なので、同じ条件にしないと覚えるのが大変になる。そこで、同じ形にして、色の展開を豊富にしようと思った。
 今回品切れだった急須は、そんな思いを満たした可愛らしいものだった。
何とか揃ったら嬉しいのだけど……。

2月11日(土)

 リサイクルセンターで、家で使う作業デスクを購入し、配達をお願いする。
 その後、「北珈館」へ。先日いただいたロゴデザインについて確認する。
数種類のデザインを考えていただいたので、それぞれの説明をしてもらった。
 それを聞くと、「デザイナーさんって、すごいな」と改めて思う。私の希望を受容れて抽出し、新たにストーリーをプラスして形にしてくれた。自分のことだから自分で選ばないといけないのだけれど、これと決めるのに勇気がいる。どれも良くて困る。
 パートナーや義母の意見も取り入れつつ、文字のデザインや配列、キャラクターなど、どのパターンにするかを決めて再度お願いする。

2月12日(日)

 12時~15時、アルバイト。忙しすぎて ”やばい” 。久々に、体を動かした。
 家に戻ってからは、ほうじ茶パフェを試作。マーマレードを利用してソースを作る。
 ソースがかかっただけで食べやすさがまったく違った。

2月13日(月)

 12時~15時、アルバイト。皿洗いだけで爪がボロボロになっていく。「慣れているね」と、お店の人からは言われたけれど、速さについていけない。大変だ。だけど体を動かすのは楽しい。
 夜は緑茶パフェの試作。お茶の佃煮を入れた変わりパフェ。旭川の髙橋製菓が製造・販売するビタミンカステーラも入れているので、お店の人気メニューになってほしい。ソースは、みたらし餡風にすることにした。甘じょっぱい和風パフェ。パートナーにもOKをもらう。

2月14日(火)

 13時、先日購入した作業デスクが届く。これでパソコン作業や事務作業がしやすくなる。
 少しずつ整ってく感じ。
 頼んでいた煎茶用急須の赤と黒はやっぱり品切れ。そのほかの色で在庫のある物は
取り置きしてくれるとのこと。とてもありがたい。

*2月下旬の日記に続きます

この記事を書いた人
【リエゾン ミサ】日本茶専門カフェ店主・日本茶アルティスト

神奈川県藤沢市鵠沼海岸生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業後、写真家として活動するが、幼い頃から食べることが好きだったため、食の道に転向する。天然酵母パンを伊藤幹雄氏に、紅茶を磯淵猛氏に学ぶ。中国茶「アランチャンティールーム茶語(チャユー)」新宿高島屋店の勤務を経て、株式会社丸山園本店に入社。直営の日本茶専門カフェ「一葉(かずは)」で約10年間運営に携わったのち独立。「LIAISON MISA(リエゾンミサ)」を立ち上げ、お茶の販売と日本茶の魅力を伝える活動を開始。その一環として、2022年7月、北海道・旭川の商業施設「Asahikawa Harete(旭川はれて)」に日本茶CAFE/和風居酒屋 WHIZ by LIAISON MISA開店を予定している。

Asahikawa Harete(「旭川ここはれて」から名称変更)HP : https://www.asahikawaharete.com
日本茶CAFE/和風居酒屋 WHIZ Instagram:https://www.instagram.com/whiz4188/

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